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凪いでいた。
あの日から悩み続けて居る胸のうちが、嘘のように静かだった。
今なら、迷わずにいけるかも知れない・・・。
ふとそんな気持ちになって、私は家をでる。
タスケテ・・・たすけて・・・助けて・・・。
僕の、あやを・・・。
・・・今のあやに、僕の声は届かない。
あやを止められるのは、君だけ・・・。
お願い・・・。
はやく、早く・・・あの海まで・・・。
・・・僕が死んだ、あの海まで。
あのあと、大丈夫だと言って白馬の家からこの部屋に帰ってきた。
この4日間、ただ学校と部屋の往復をして、渕埼さんの容態を見に行く訳でもなく。
そして、私は思考を放棄した。
律を忘れたのではなくて、ただ目の前の人を助けたに過ぎないと自分に言い聞かせて。
その意識が途切れると、途端に自分の胸の内を問いただしてしまうから。
リビングのカーテンを開ける。
月光が部屋に浸みていく。
月は、上弦・・・。
気付けば夜は明けていた。
私は風呂場ではなく、ベッドの上に居る。
昨晩私はあのまま気を失ったらしく、旋さんが部屋まで運んでくれたらしい。
・・・もう、血の匂いはしなかった。
夢の中で伸ばす腕。
それはいつでも届くことはなく。
私の目の前では律が倒れ、辺りを血の赤がじわじわと侵蝕して行く。
幾度伸ばしても届かない腕に、私は諦めていたのかも知れない。
本当に大事なものは、どのようにしてでも掴まなければならないのに。
今更気付いても、もう、遅い・・・。
・・・私は弱い。
その弱さで、私は取り返しの付かない間違いを犯した。
過去に縋り、決断することに怯え、その事から目をそむけ続けてきた罰。
あの木洩れ日の時間は、きっと、もう戻らない・・・。
夢の中で、幾度となくゴーストに向かっていく律。
止めようと何度も手を伸ばしたけれど、届くことはなかった。
でも、私は何故あんなにも必死になって腕を伸ばしたのだろう。
ゴーストに向かっていく律の背中に、一人置いてけぼりにされた気がしたのだろうか・・・。