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夢の中で、幾度となくゴーストに向かっていく律。
止めようと何度も手を伸ばしたけれど、届くことはなかった。
でも、私は何故あんなにも必死になって腕を伸ばしたのだろう。
ゴーストに向かっていく律の背中に、一人置いてけぼりにされた気がしたのだろうか・・・。
斬り裂かれ、赤く赤く染まって行く背中。
渕埼さんの右手の得物は取り落とされて床に転がったまま。
新しいゴーストに直接叩き込んだ拳を引き抜くと同時に、彼の膝から力が抜けていくのが見えた。
・・・ふと、あの時と同じ匂いがする。
アスファルトに横たわる律に駆け寄った時と同じ、血の匂いが・・・。
「駄目・・・!!」
思わず口を出た言葉に疑問を挟む余裕もなく、私が伸ばした指先からは律の白燐蟲が飛び立ち、辺りのゴーストを喰らってゆく。
普段は意識しても使うことの出来ない蟲が、辺り一面を銀色に埋める。
力が抜け、崩れそうな渕埼さんを後ろから抱きとめる。
私の唇は無意識に、律だけの為と決めていたアヴェ・マリアを紡いでいた。
短い時間で彼は意識を取り戻し、私を振り返り、名を呼ぶ。
抱く腕に知らず力が入った。
その時銀の海に亀裂が走り、喰い残されたゴーストがこちらに向かってくる。
彼は私の腕を振り解きゴーストに向かっていく。
全ては一瞬の出来事。
突き飛ばされた体勢を整える間に距離は遠のき、伸ばした手は届かない。
(またなの・・・っ!?)
咆哮と共にゴーストは霧散し、左腕の得物は砕かれ、弾き飛ばされた彼は柱に叩き付けられる。
ずるりと崩れ落ちると赤い軌跡が柱に刻まれ、足元には赤いシミが広がっていく。
「あ・・・あぁ・・・」
あの日と同じだ。
夜の黒。白く動かない身体。------赤い、シミ。
私の腕は、また、届かなかった・・・。