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旋さんに誘われて訪れたゴーストタウン。
祭り気分が抜けないまま気軽な気持ちで踏み入れた先で、確かに私は彼を傷つけたのだろう。
私はその居心地の良さに、気を弛め過ぎていたのかも知れない・・・。
夜。
生まれたばかりの月は細く、空に爪を立てている。
旋さんに楽器製作の材料集めに付き合って欲しいと言われたのは先日のこと。
学校の休みを利用して訪れたゴーストタウンは、今まで来た事のない所だった。
材料集めには今までも何度か付き合ったことがあったし、今回は渕埼さんが同行すると聴いていた。
今思えば、心に隙が出来ていたのだと思う。
だから、床が崩れそうになっているなんて、これっぽっちも考えなかった。
先に行ってしまった旋さんを追いかけるように、2人で奥へ向かう。
一息ついたその時、足元のコンクリートが音を立てて崩れ、私は垂直に落ちていく。
渕埼さんは私の伸ばした腕を掴み庇う様に引き寄せたが、私たちはそのまま階下の床に叩きつけられた。
大丈夫だと言う彼の右腕に大きな傷は見当たらず、私は少し安心する。
直後、ゴースト達の声が聞こえ、私たちは囲まれている事に気付いた。
辺りに上の階に戻れるものは見つからず、ゴーストを突破するしか道は無い。
渕埼さんはゴーストに向かって駆けて行き、私は群れ全体を弱らせる為歌った。
数体はすぐに倒され、彼が次の妖獣に向かった時、動きが一瞬止まる。
その隙を突かれた一撃で床に叩きつけられるものの、立ち上がり再び向かっていく。
夜の闇。走り行く背中。------赤く光る、目。
突然、私は思い出す。
あの時も律は私を置いて、闇の中光る目に向かって走って行った。
伸ばす腕は届かず・・・そして、律はそのまま帰ってこなかった。
嫌な予感に頭を振り、歌に意識を向けようとするが、渕埼さんの周囲に現れた赤い霧に声を詰まらせる。
「――歌を止めるなッ!!」
声を荒げた彼は、再びゴーストに向かっていく。
蓄積したダメージの所為か、段々と動きが力任せになっていくのが判る。
(もう良い・・・もう、止めて・・・っ)
チラつく風景を必死に振り払って歌い続ける私の前で、渕埼さんが雷に打たれる。
抵抗する間もなく、ゴーストの爪がガラ空きになった背中を斬り裂く。
嫌な予感は、的中したのだ・・・。