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夢の中で伸ばす腕。
それはいつでも届くことはなく。
私の目の前では律が倒れ、辺りを血の赤がじわじわと侵蝕して行く。
幾度伸ばしても届かない腕に、私は諦めていたのかも知れない。
本当に大事なものは、どのようにしてでも掴まなければならないのに。
今更気付いても、もう、遅い・・・。
「どういうことだ!?」
旋さんが渕埼さんの手首を握り、口元に顔を寄せる。
顔を顰めながら手当てする様子を、ただ眺めていた。
旋さんは私に歌えと言ったけれど、既にヒーリングヴォイスはない。
「何でもいい
こいつが帰って来る事だけ祈って歌ってくれ」
言われるままに歌うが、どこか諦観が混じる。
旋さんが、手を止め私を振り返る。
「このままじゃこいつは死んじまう・・・
他に誰が、こいつを連れ戻せるって言うんだ
あの時とは違う・・・まだ、こいつは帰ってこれる!
諦めるなっ!・・・喉が裂けても歌い続けろ!!」
あの時とは違う・・・?
私には、まだ、腕を伸ばし引き寄せるだけの力はあるのだろうか。
・・・考えている時間は、ない。漸く声に力が籠る。
力があろうが無かろうが、ここで彼を死なせる訳には行かないのだから・・・。
渕埼さんを家に送り届け、心配した旋さんに言われるままに白馬の家に向かう。
血に塗れたドレスはカードに戻ったけれど、新しく付いた血は取れていない。
シャワーを浴びる。温い水が私を打つ。
・・・渕埼さんは大丈夫だろうか。
能力者といえど、あの傷は酷いものだ。
今になって、後悔し始める。
・・・もし、床の異変に気付くほど注意を払っていたら。
・・・もし、渕埼さんの異常にもっと早く気付いていたら。
・・・もし、あの時振り解かれないように強く掴んでいたら。
もしも、もしも・・・そればかりが繰り返す。
脳裏には、あの夜に向けられた律の微笑みと、被るように渕埼さんの顔・・・。
力なく座り込む。涙が頬を伝い、湯に流されていく。
頬を触る。温く、まとわり付くような感触。
ふと顔を上げると、鏡に映る顔が赤く見えた。
見回すと、赤いシミがあたりに広がってゆく。
シャワーヘッドから流れるのは・・・赤い、赤い液体・・・。
ああ、匂いがする。死を招く、血の匂いが・・・。
ごめんなさい・・・私の弱さが、貴方にそんな傷を負わせてしまった。
全ては、過去に囚われて前を見られない、私の迷いの所為・・・。
ごめんなさい・・・本当に、ごめんなさい・・・。