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気付けば夜は明けていた。
私は風呂場ではなく、ベッドの上に居る。
昨晩私はあのまま気を失ったらしく、旋さんが部屋まで運んでくれたらしい。
・・・もう、血の匂いはしなかった。
ドアをノックする音、続いて扉を開け入ってくる人の気配。
「・・・起こしたか?」
ちょうど起きた所だと伝えると、旋さんは安心したように息をついた。
「飯、食えるか?
誰かに言って粥でも作らせる・・・」
旋さんが部屋から出てそう経たないうちに、お手伝いさんが食事と着替えを持ってくる。
食欲はないけれど、食べなければ・・・。余計な心配をかけてはいけない。
時間をかけて飲み込み、器を空にする。
着替えて台所に向かった頃には、旋さんの姿はなかった。
お義母さまが家を空けていることに安堵して、私はリビングで膝を抱える。
抱きとめる腕。ゴーストに向かう背中。怪我をして血の気のない顔。
私は、あの時、一瞬でも律を忘れてはいなかったか。
ずっとここまで共に過ごした律よりも、出逢って半年にも満たない彼に向いてはいなかったか。
・・・そんなことはない。
私はこの一年、いや人生の大半を誰のおかげで生きてこれたと言うのだ。
あの時、律が私を生かしてくれたから、私は此処に居ることができる。
もしそんなことがあれば、律に申し訳が立たない。
どこか言い訳じみた思考を巡らせるうちに、旋さんが帰ってきた。
咄嗟に出てきたのは、彼の容態を訊ねる言葉。
「・・・大丈夫だ。生きてる」
その言葉に胸を撫で下ろす自分が、裏切り者のようで堪らなくなった。
もし彼を選んでしまったら、私の中の律は何処に行けば良い。
それは、律をもう一度殺してしまうことと同じだ・・・。