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学校祭当日、光庭ではお茶と簡単な音楽を用意することになっていた。
伴奏の当てのない私は、本格的になりすぎる事を嫌って独りで歌うことを断念し、フルートでのソロを考えていた。
そこに旋さんから渕埼さんと3人で組む話を持ちかけられ、唐突にセッションをすることになったのは数日前の事。
その日のうちにCDを借りて、曲をアレンジした。
渕埼さんがギターを爪弾く様子を、想像して。
彼はどんな音でこのメロディを奏でてくれるのだろうかと、ただそれだけを・・・。
「どうして、そんな簡単なとこで何度もとちれるんだ?」
手の止まってしまった渕埼さんに旋さんが苦笑する。
確かに彼は先程から同じ所で詰まっている。
アレンジがやりにくかったのだろうかと、楽譜を眺めながら考える。
「肩に力入ってるぞ」
旋さんが渕埼さんの肩を叩く。それで漸く緊張が解れたようだった。
休憩の間にも、渕埼さんは詰まった所を何度も練習している。
「・・・お前より桜の方がよっぽど正確だぜ、リズムの取り方が」
背中を丸めて寝ている桜さんの尻尾は、メトロノームのように正確に揺れていた。
その様子に小さく笑うと、渕埼さんは眉を顰めた。
「でも、上達は早いと思いますわ。しっかり練習されてますもの
・・・音も穏やかで渕埼さんらしくて――私は、好きですよ」
渕埼さんが、驚いたような目をして私を見つめる。
合った視線が妙に恥ずかしくて、私は慌てて目を逸らした。
「そ、そろそろ・・・続きを、はじめましょうか・・・」
「――そう、だな」
木洩れ日の時間は暖かく、穏やかで。
去年の事を思い出して塞ぎそうになっている気持ちが上向いていく。
それは、とても幸せに満ちていた。
しかし私は忘れていたのだ。
終わりは、いつも唐突に訪れるものだという事を・・・。