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・・・私は弱い。
その弱さで、私は取り返しの付かない間違いを犯した。
過去に縋り、決断することに怯え、その事から目をそむけ続けてきた罰。
あの木洩れ日の時間は、きっと、もう戻らない・・・。
動かない彼に最悪の事態を連想した瞬間、咳き込む様子が見えた。
まだ生きていると、そう思った時漸く足が動いた。
目の前にしゃがみこみ、顔を上げさせると口の端を血が伝う。
「怪我は・・・ない、な・・・良かっ、た・・・」
「どうして・・・こんな・・・っ」
彼ならば足手纏いの私を置いて行くことも出来たのに、何故それをしなかったのか。
「・・・君を、護りたかった・・・」
右手で押さえる左肩の傷は、先ほどの衝撃で広がったのか、新しい血を流している。
匂いが鼻につく。くらくらするほどに濃い、死の匂いが・・・。
あの日、倒れながらも私に手を伸ばし微笑んだ律の姿がチラつく。
不吉な予感を振り払うかのように頭を振る。
(あの時と、何も変わらない・・・!)
こんな事になるなら、私一人を置いて逃げて欲しかった。
でも、私はそれを口にしなかった。
この結果を招いたのは、私の迷い・・・。
ふと渕埼さんが手を伸ばす。
「・・・俺は・・・君、が」
まだ力を失わない瞳が、私を捉える。
真剣な、何か想いを伝えようとするような視線。
指先が頬に触れる。ぬるりとした感触が、あの時伸ばされた手と重なる。
あの夏の夜に、喪ってしまった手と。
・・・一度ならず二度までも喪うのは、耐え切れなかった。
「やめて・・・っ!」
咄嗟に口をついた言葉に、彼の手が止まる。
「・・・すま、ない・・・」
彼から、急速に生命力が失われていくのを感じられた。
赤いシミの中に、同じ赤に染まった左腕が力なく沈む。
頭を垂れ、ぴくりとも動かない。
私はまた同じ間違いを犯してしまったのだろうか。
こんな事になるならば、身を挺してでもあの爪を受けるべきだった。
私はいつも見ているだけ。伸ばす腕はいつでも一呼吸遅れ、裾を掴むことすら出来ない。
「いやぁ・・・っ!!」
旋さんが姿を見せたのは、私が悲鳴を上げると同時だった。