先日、久しぶりに御車君とお茶の時間を共にした。
律の話を聴きたくて。少し、強引に・・・。
私が知らないところに居た律も、私が見ていた律と変わらなかったと聴いて、少し安心した。
しかし、私は私を赦せない。
私の近くに居てくれただけではなく、私の知らぬところで私たちを護っていてくれたことを知らずに、ただ安穏と生きていたことが。
律は言っていた。
「あやは、何も心配しなくて良いんだよ」
いつでもそう言って微笑んでいた。
あの日も律はそう言って、私の頬を撫でて・・・。
「・・・律・・・」
御者君が帰ったあとのテーブル。
空いた椅子。空になったティーカップ。独りの空間。
先ほど御車君が呟いた言葉を思い出す。
「…まぁ、蘇らせないだけ、平穏なのかな…」
出来るならとうの昔にやっている。
それが一時でも、律ともう一度話せるならば。
ティーセットはそのままに席を立つ。
自室に戻り、後ろ手に扉を閉める。
クローゼットの奥から大きな箱を取り出す。
新しいのに少し日焼けたその箱から、箱より煤けた白いドレスを取り出す。
昨年の誕生日に着る筈だったそれを抱きかかえて、倒していた写真立てを起こす。
少し恥ずかしそうに微笑む2人。
式の前に記念で撮った写真だ。
そして、予定とは違う"式"で使った写真でもある。
「あの時、私も一緒に逝けたら、良かった・・・」
律は向こうで、独りで寂しくはないのだろうか。
ふとそう思ったが、すぐにその考えを否定する。
人は死んでしまえば何も残らないのだ。
まれに気持ちを残して仮初めの時間をすごすものも、やがてはその気持ちさえ忘れてゆく。
寂しいのは私。残ってしまったのは私・・・。
今は喪ったことの悲しさに浸ってはいるけれど、それすら時間が経てば忘れていくのだと何処かで識っている。
しかしそれは赦されない。
それは、律が私を想ってくれた事を忘れるに等しいことだから。
「・・・律・・・。
早く迎えに来て・・・このままじゃ、待ち草臥れてしまう・・・」
もう一度逢えたら何と言おう。
「愛してる」「ありがとう」「ごめんなさい」
どの言葉も違う気がして、私にはまだかける言葉が見当たらない。