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招き入れられた部屋は、客間らしく簡素で。
渕埼さんが戻るまでの間、余計なことを考える余裕もなかった。
結局切り出す言葉が決まらぬまま、私は彼と対峙する。
しばしの沈黙の後、口を開いたのは同時で。
私は促されるままに、話し始める。
「先日のゴーストタウンと、海で助けていただいたこと、ありがとうございました・・・
それから・・・申し訳ありませんでした」
頭を下げる私を見て戸惑う雰囲気を感じる。
「渕埼さんの想いに気付いていながら無碍にした事、申し訳なかったと思っています。
ですから、謝らせて下さい・・・」
顔を上げてくれと言われて、漸く身を起こす。
「渕埼さんの怪我も、私の迷いの所為です・・・
それは、頭を下げて済むとは思っていません」
気を使った言葉を貰っても、罪は消えない。
あの時、迷わずに腕を伸ばしていれば、深い傷を負わずに済んだのかも知れないのだから。
私が迷い続ける限り、私はきっとまた誰かを傷つける。
震える声を必死に抑えた。
「・・・私は、もう迷いません
・・・私が律の思い出の中に生きるのではなくて、律を私の思い出にして生きようと決めました」
自分の鼓動で蝉の声も聴こえない。
「・・・私はずっと、渕埼さんに惹かれている自分に気付かないフリをして、律を言い訳に逃げてきました・・・
それが、貴方を傷つけると知っていても・・・」
彼を真っ直ぐに、見ることができない。
「私から律を無くすことは出来ません
けれど、それで良いのだと漸く思うことが出来ました・・・」
呼吸が、乱れる。
「もう、自分に嘘は、吐けません・・・」
俯いたまま、ひとつ息を吐く。
震える手を、強く、握った。
「・・・勝手な事を言っているのは承知の上です
でも・・・これが今の私の正直な気持ちです」
そこまでを漸く言葉にして、渕埼さんの目を見る。
あとは、拒絶の言葉を待てば良い。
「・・・すまない」
静かに告げられた言葉。
私は安堵し、知らず微笑みを浮かべていた。