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渕埼さんは、私の空白を光のように照らし暖めてくれた。
共に過ごした時間で、私はどれだけ寒さを忘れていられただろうか。
今日は律の一周忌の法要。
話をするには、良い機会だろう。
朝から忙しく手伝い、家族だけになれたのは夕刻過ぎ。
私は幼い頃に生家を離れ、それ以来この家で暮らしてきた。
律とは兄妹の様に育ち、ずっと先まで一緒に過ごすのだと当たり前のように思っていた。
私にとって白馬の家はただの嫁ぎ先ではなくて、家族そのもの。
他に行く場所のない私にとって、それを失う事は全く考えられなかった。
しかし、律以外の人を選ぶという事は、この家との縁を切る事も考えねばならない。
「・・・お話したい事が」
背筋を伸ばして、3人を真っ直ぐに見つめる。
「・・・好きな人が、出来ました」
お義父さまとお義母さまが、驚いたように顔を見合わせた。
「勿論、律の事を忘れてはいません
でも・・・何て言ったら良いのか・・・」
「アイツ、なのか・・・?」
遮るように言われた旋さんの言葉に、静かに頷いた。
今、隣に居たいと思っているのは、彼だと。
「そう、か・・・それで・・・?」
「明日にでも、お話をしに伺おうかと思っています
その前に、お義父さま達に話を、と・・・」
どんな人なのかと訊くお義母さまに、旋さんが口添えしてくれた。
「見た目はあんなんだが、信用出来る奴さ」
何度か顔を合わせているらしいお義母さまは、納得した様子で微笑んで。
お義父さまは2人の様子を見て、頷いた。
「でも忘れないで。貴女は、私たちの娘ですからね」
私の考えを見透かすようにお義母さまは言い、お義父さまと一緒に微笑んだ。
私は、律と出逢えて、貴方たちの娘になれて、本当に・・・本当に良かった。
この想いを受け入れてもらえる事は甘い考えと判っている。
だから明日、気持ちを伝えて、ケジメをつけよう。
彼の口から引導を渡してもらえば、この気持ちを抑える事が出来るはずだ。
私には帰る場所がある。それだけで、十分だから・・・。