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4月1日。土蜘蛛の結界に覆われた街。
人気のない通り。あとからあとから湧いてくる蜘蛛。
傷を負ったたくさんの能力者。倒されていく土蜘蛛の軍勢。
力尽きた仲間。逃げた女王。
これだけの大きな戦いは、結界の中にも影響を与えるだろう。
しかし、世界結界に護られた多くの人たちには、エイプリルフールの冗談だと思われるかも知れない。
だけど、怪我をした身体は重いし、テルの涙は・・・痛かった。
Umleitungの溜まり場。
神津やテルとチームを組んで向かった駅の敵勢は強固で、畳み掛けられた攻撃になす術もなく、わたしは重傷を負った。
毒に犯された影響か、身体が鉛を詰めたように重い。
重傷の身で戦場に戻ろうとすると、神津や他の面子に反対された。
それを突破していくほどの余力はなく、こうして大人しく溜まり場のソファに沈んでいる。
思い立ち、ゆるゆると携帯に手を伸ばし、電話をする。
いつものように動けないのは解っていても、何かをしないではいられなかった。
相手も重傷を負っているのは、隣で戦っていたから良く知っている。
でも今誘いに乗ってくれるのは、そいつだけだと思った。
「わかった。行くか」
笑みを含んだ短い返答。軽く打ち合わせて電話を切った。
寝返りを打つのもかったるい。
視界の隅には、うな垂れて元気のないテルが、ぽつん、と座っている。
が、今かけた電話の会話で内容を察したんだろう。
自分も行くと言う。
テルにはなれない戦闘で、しかも重傷を負っている。
自分の身すらまともに動かせないのに、テルのフォローに回ることはできない。
連れて行けないと断ると、珍しくなおも食い下がった。
「・・・・・・目の前でみんなが倒れていくのを、夢に見る」
だから、一人で寝ていたくない、と。
その気持ちは、身に染みて解っている。
「・・・わかった・・・良いよ・・・
その代わり、カバーはできないから・・・そのつもりで」
空ちゃんは自分のことだけ考えて。と答えたテルの様子に、約束を無視して少し無茶した気になる。
ソファに身を沈めたまま、腕だけを伸ばして手招きをする。
足を引きずりながら寄ってきたテルの手を握って、言い聞かせるように言葉を発する。
「・・・大丈夫・・・わたしは、倒れても消えたりしないって・・・」
笑顔を浮かべる。努めて、いつものように。
でも、テルは悲しそうな表情を浮かべたあと、泣き出した。
いつもの笑顔とは違う表情に少々面食らいつつ、身体を起こしてテルの頭を撫でる。
テルは何か言いたげな表情を浮かべたけれど、嗚咽で声にならない。
ようやく口にした言葉は。
「・・・・・・僕、強く・・・・・・なるから」
か細いけれど、小さいけれど、少しだけはっきり聞こえた決意は、再び流れ出した涙に埋もれていった。