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この間、寅の家に遊びに行った。
寅の家は学校から近くて最近良く遊びに行ってて、当然のようにテルもついて来てた。
寅の家は純和風な感じで、縁側と猫が良く似合ってる。
寅がお茶を持ってくる間、テルは猫と遊んでて。
「ねえねえ空ちゃん、猫と遊んでもらっちゃった」
テルが気まぐれに猫と戯れてるように見えて、その猫がわたしに重なって見えた。
なんとなく直視できなくて視線を外に向けると、テルが横に座った。
「……僕は、ここにいる、から」
猫を抱えて差し出すテルに、なんだか凄く腹が立った。
ここにいるからなんだって言うんだろう。
いつもより真剣な声でも、顔はいつもの笑顔のまま。
・・・まったく意図がつかめない。
だから少し、言い過ぎた。
「今のわたしに、テルはいらない・・・」
傷ついた顔のテルを残して、走って家を出た。
後ろから寅が追いかけてくるのがわかったけど、立ち止まるわけには行かなくて必死に走った。
川原まで走ったあたりで腕をつかまれた。
振り解きたかったけど、そこまでの力は残ってなかった。
「……落ち着け、忘れ物を届けにきただけだ」
上着を渡すためだけに全力ダッシュで追いかけてくるやつなんていない。
わざわざ様子を見に来たというのか。
橋の柱に背中を預けて座り込み、呼吸を整える。
「テル、ほっといて良いの・・・」
「宣昭が気がかりか?」
即答しそうになって黙り込む。
「宣昭は嘘を知らない。
誰に対しても嘘をつけないからこそ、逆に嘘と真実の別がつかなくなる」
きっとそうなんだろう。それは良く、わかった。
寅は静かに話してて、わたしの気持ちを落ち着かせた。
次会った時は、謝ろう。
でも、その"次"は思ったより早く来たのだった。
暗くなりはじめた空。
家に帰るのは憂鬱だけれど、泣き腫らした目で結社に行くわけにもいかなかった。
目を上げると、アパートの前に見覚えのある姿が待っていた。
「……さっきは、ごめんね」
言うだけ言って、勝手に帰ろうとする。
わたしに謝る隙も与えないつもりだろうか。
声をかけるとおずおずと振り返る。
「こっちこそ悪かったよ・・・言い過ぎた」
そういって礼をすると、テルはぶんぶんと首を振った。
「部屋、上がる・・・?
ただ待ってるのも疲れたでしょ・・・」
返事を聞かずに扉を開ける。
テルに扉を閉めさせて、小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを出し投げ渡す。
窓が見えないように厚手のカーテンを閉めて、テルと反対の壁に寄りかかるように座る。
明かりのつかない暗い部屋の中では、相手の顔も良く見えない。
それがかえって正直に言葉を言えるような気がした。
だから話した。
夜眠れないこと、窓の外からわたしがわたしをずっと見ていること。
つとめて口調は軽く、笑い話のように。
「ねえ空ちゃん、今日だけは眠ってみない?」
話を聞いて、テルはそう言った。
窓の外のわたしに、なぜそこにいるかを訊きたいとも。
きっと、テルなりに気を使ってくれているんだろう。
でも、テルには窓の外のわたしは見えないはずだ。
立ち上がりカーテンを一気に開ける。
「どうよ・・・」
「思いつめた顔の、空ちゃんが見える」
わたしは久方ぶりに"わたし"を見つめ、相手の手に自分の手を重ねた。
一人の時のわたしには絶対にできないことだ。
後ろに支えがあるというのはこんなにも心強いものなのかと、窓に映るテルを見て思った。
テルはわたしの後ろに立ち、見えないはずの"わたし"に声をかけた。
「空ちゃんが、空ちゃんに何を伝えたいのか、僕にはわからない。
でも、いつかきっと伝えられる日がくると思うんだ。
……だから、今日は二人とも眠った方がいいよ」
(あなたは、わたしを眠らせてくれるの・・・?)
目を閉じて、窓向こうの"わたし"に問う。
目を開いたとき、"わたし"は少しだけ影を潜めてくれた気がした。
「ありがとう、空ちゃん。きっと、大丈夫だからね」
「・・・なにが大丈夫なんだか・・・」
テルの言葉に少し荷が軽くなったような気がして、軽口をたたきながら振り返った。
いつもはムカついてた笑顔が少しだけ頼もしく見えた。
しばらくは、この笑顔に乗せられてみようかな・・・。