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思ったよりも軽くなった律の眼孔と目が合った、と同時に反射した太陽光が目に入った。
きらりと煌めいた光で目の奥に痛みを感じたけれど、まだ手伝うことは山と残っている。
私はそのまま一日過ごし、漸く眠りについたのは夜中だった。
夢の中では私はあの日をもう一度やり直している。
朝一番でジュエリーショップに指輪を取りに行き、クリスマスに着るはずだった白いドレスのデザインを選び、採寸をする。
律の用意してくれた特別な夕食を楽しんで、白馬の家の近くでタクシーを降りて、波の音と星明りを共に他愛のない会話をする。
あの日のとおりなら、律は車に跳ね飛ばされ、私は一緒に救急車に乗るはず・・・だった。
帰宅の途についた所までは同じだ。
けれど、律を跳ね飛ばしたのは車などではなかった。
今まで見たこともない、大きな獣のようなもの。
私が車のランプだと思っていたのは、それの光る目だったのだ。
律は同じタイミングで私の横を走っていく。
律はいつの間にかフルートを握り締めていて、それに向かっていく
けれどそれの体当たりに飛ばされ、それはそのまま闇へ消えていく。
足元へ目を転じると、向くはずのない方向へ首を向け、倒れた律。
あの時と同じように、夢中で律の顔に顔を近づける。
あの時、律の口からは息が漏れるだけで、囁く様に動く唇からは何も聞こえなかった。
「大丈夫・・・? 良か・・・った・・・」
耳に届かなかった言葉は、代わりに頭の中に直接響いた。
「いやあぁぁーー・・・っ!!」
自分の悲鳴で、目が覚めた。
両親が心配して様子を見に来たが、大丈夫だと言って部屋から追い出した。
目を瞑ると血まみれで微笑む律の顔がちらついて、結局朝まで眠ることができなかった。
朝の光が差し込む部屋で何気なく見た鏡に映っていたのは、肌の色が幾分青白くなり目の色が抜けた私の姿だった。
あれから何度この夢を見ただろうか。
同じところで私は悲鳴を上げる。
夢に慣れた私は、悲鳴を飲み込む術を覚えた。
けれど何度伸ばしても、走る律の背中に、腕は届かない。