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時間前についたはずなのに、既にそこには深都貴が待っていた。
深緑のワンピースに身を包み、本に視線を落としている。
「待たせたか?」
「待つつもりで、早めに着てたのよ 案内してもらうンだし、ね
宜しくね、旋センパイ」
先日の雷雨は何処へやら。今日の空は高く広く晴れ渡っている。
深都貴に歩調を合わせ、歩く。
時間通りなら、バス停に着く頃には出発前の便が待っているはずだ
ランチの希望を訊きながら、バスに揺られて。
落ち着いた雰囲気で気取らずに食える店を選び、腰を落ち着ける。
注文の料理がテーブルに並び、嬉しそうに笑う様子にほっとした。
こちらのパスタとあちらの抹茶サンデーを一口ずつ交換し、食後のコーヒーを啜ったあと店を出る。
「払うわよ? 後輩でも、私のほう多く食べてるんだし」
「今日は奢られとけ
気になるなら、今度学食奢ってくれれば良いから」
「んもぅ かっこつけすぎー」
「カッコつけで結構ー」
ぺしぺし俺を叩く様子に笑いながら、既に目星をつけてある店に向かう。
使いやすくて収納が楽なものを探し出し、適当なものを選んでレジに出す。
財布を取り出した俺を、深都貴が咎める。
「ここは 私も出すんだから そう云う話だったでしょ
あ 細かいの嫌なら 多めに出すけど?」
「ああ、そうだった
・・・じゃあこれで後は頼むわ」
半額より少し少ない金額で、深都貴の出資が多いように札を置く。
昼食のこともあるから自分が多く出すと、暗に言っているのだろう。
上手い言葉を選んでいるなと感心しつつ、セットの入った紙袋を持つ。
コーヒーに合うチョコレートを買い、ほかの店を冷やかしながら寄り道をする。
「そういえば…改めて、というか 今更なンだけど…
学校と”公式の場”以外で 旋センパイと会うのって初めてね」
考えてみれば、光庭と家の付き合いで出席するパーティー以外でつるむのは初めてだった。
カフェでのバイト以外では光庭に居ることの方が多くて、顔を合わせる時間が長いから不思議と初めてという気がしなかった。
微笑みかけた視線の先にアクセサリーの店を見つけ、ついふらふらとドアをくぐり、気になるパーツを手に取る。
暫く眺めたところで、深都貴を思い出す。俺としたことが、連れの存在を忘れるとは不覚。
深都貴に謝り店を出る。そろそろ送る時間だ。
家の場所を聞いて、そこまで送り届ける。
秋晴れだった空は今、綺麗な夕暮れだ。
別れ際に、最後の店で深都貴が気にしていたヘアピンを取り出し、つけてやる。
不意打ちに慌てる深都貴の頭を撫で、反論を聞く前に背を向ける。
自室に着く頃、携帯にメールが届いた。
To:旋センパイ from:深都貴
『センパイって、やっぱり かっこつけ過ぎね。
でも…、楽しかったわ 今日は有難う 機会があればまたご一緒しましょ?
追伸:ヘアピンについては、逃げたンだから お礼云わないわよ
でも、贈り物を邪険にするような 人でなしじゃないから
貰っておいて上げるわ』
「・・・可愛いねぇ」
先ほど買ったチョコレートを共にインスタントコーヒーを飲みながら、久しぶりに過ごした楽しい時間を思い出して、俺は微笑った。