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竜宮城で逃した船が某所に現れたと言う知らせが学園にもたらされ、わたしも作戦に参加しようと概要を確かめる。
ポジションは幽霊船にたどり着くまでの船の護衛と、船内に入るための甲板の掃除と、最深部への道の開拓。
わたしが3つの中から選んだのは、最深部へ向かって行く戦いだった。
テルには内緒のつもりだったのに、どこから嗅ぎつけたのか一緒に行くという。
うんざりしてそれには返事をせずに、テルを置いて一人になった。
「やっほー 空ん、困り顔やな」
上から能天気な声がかけられる。
関西弁と、高い位置から発せられる声。凶だ。
凶は胡散臭い感じのするノリの軽い男で、寅の家で何度か顔をあわせる内に話すようになった。
「ズバリ、幽霊船の話で突貫しようとして テルんに見つかったと見た どや?」
でも、軽い割には鋭い。
「あいつウザいんだけど・・・どうにかなんない・・・?」
沈んだ顔でひざを抱えるわたしの横にどかりと腰を掛け、笑う。
「そう言うンは、邪険にすればするほど くっつかれるんやで」
「意味わかんないだけど・・・」
手に入らなければ、余計に欲しくなる。
そういう感情があることは判るが、わたしには解らない。
「空んに、くっつくんは 空んを通してテルんが欲しいモンがあるんやろ
価値はテルんにしか わからんもんかもしらんけどな」
そう言って投げ渡された缶コーヒーを開ける。
凶の口にしていることは、やっぱりわたしには良く解らない。
実感として、理解できるわけではない。
口にしたコーヒーは酷く甘かった。
「んー、思いっきり 戦いたいんやろ? 憂い無く」
真意を問うような言い方ではないけれど、芯のあるどこか核心的な訊き方をしてくる。
でも自分の気持ちは判らないままで、わたしは曖昧な答え方しかできない。
「ごちゃごちゃ考えるん 嫌なんちゃう?
心をざわつかせるモンも、
全部忘れてしまえる位 戦いたい……そう思ってるんやないかとな」
一瞬、わたしの考えを読んでいるのかと思った。
わたしが言葉にできなかった答えを、何事もないように口にする。
テルのことも、テルの言葉でイライラする自分も、もやもやした全てを忘れていられることならなんでも良い。
わたしに思いつくのは、力を振るうことだけで。でも、テルの前ではそれもままならない。
ひざを更に引き寄せ、顔を埋める。頭を撫でる感触がした。
「ほな、伸び伸び戦えるよう 援護したるから、ついでにテルんも巧く押さといたるから
甲板か護衛の当たりで、ワイと暴れるっちゅーのはどや?」
他の面子も一緒の方が、テルだけが気になることはないだろうと。
・・・一緒に行くなら、甲板だ。護るために戦うのは苦手だから。
反発する理由はテル以外にはないのだし、みんなと同じ場所で戦うことを決めた。
「悩んでもわからん時は、無理にわからんでも えぇと思うで
判りたいと望んでる事やなかったらな」
そう言ってさらりと去って行く。凶は何をどこまで知っているんだろう。
ふと湧き上がった疑問はすぐに霧散する。
最近落ち着いてものを考えられない事に、気づかない振りをした。