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危険。めっちゃ長い
わたしは夢を見ない---。
というよりは、夢を見なくなってから久しい、というのが正確だろう。
そしてより正確に言うのであれば、わたしは夢を見るほどに眠らない。
うつらうつらと夢と現の境目をふらついて、そうして朝が来るのを待つのだ。
研究所に居たころは違った。
あの生活が当たり前だったころは、よく眠っていた。
覚えては居ないけれど、夢もよく見ていたように思う。
あの時は無垢で、無知で、何も知らなかったから、"仕事"のあとでもぐっすり眠ることができたのだろう。
白衣の大人が見える窓の向こうにじっと立っていた影を気にすることもなかったし、朝が来るまでの時間を恐れることもなかった。
でも今は違う。
わたしはあの世界から引っ張り出されてしまった。
あの世界が常識から離れたところにあることを知ってしまった。
そして、己の手が如何に汚れているのか、呼吸をするように犯してきた数々の罪の深さを知ってしまった。
それからだ。眠るのが怖くなったのは。
保護されて場所が変わっても窓の外にじっと立っている影が、いつかこちらに入ってくるような気がして心が落ち着かなかった。
だから影がいつ入ってきても良いように、壁に寄りかかり窓に対峙する様になった。
当然のように眠る時間が少なくなったある日、耐え切れずわたしは倒れた。
そしてわたしは久しぶりに夢を見た。
"仕事"のあと部屋に戻る。
いつもどおり作業服の大人がわたしを機会に繋いで、白衣の大人が窓から見ている。
そしてその大人たちの向こうに影がいる。
研究所にいるころは心に留めなかった。そして今は恐怖で見ることの出来ない影が。
気づいてしまったわたしは、そこから目が離せない。
ただの影だったそれは、段々と形を成してくる。
最初は研究所の大人たちだと思った。
次は"仕事"で関わった大人たちだと思った。
その次は一緒に生活してる子供たちだと思った。
後姿の影は段々と色付く。
白い病院服を着た子供の髪は金髪。
ぼんやりしていた輪郭は振り向くにしたがって成長しはっきりとし始める。
白い病院服は白いシャツに変わり、金髪はオレンジがかっていることがはっきりと解るようになった時、影は完全にこちらを向いた。
その顔は、わたしだった・・・。
"わたし"はついに窓を越え、わたしの目の前に立った。
"わたし"の視線に射抜かれたわたしは身動きができない。
胸の奥がざわざわと逆立つ。喉が凍りついたように動かない。
悲鳴を上げることもできない。
"わたし"は何も言わない。ただ、わたしを、わたしの瞳を見つめている。
ただ、罪に罰は免れはしないと諭すように見つめている。
ならば今すぐに、ここで、わたしに罰を与えてくれ。
そう願っても"わたし"は微動だにせず、わたしを見つめている。
どれくらいの間見つめ合っていたかは判らない。
"わたし"が口を開いた。
同時にわたしは悲鳴を上げ、夢から戻った。
そして丸一日眠っていたことを知ったのだ。
影がわたしだとわかってから、夜の間だけ現れていた影は昼間も現れるようになった。
そのおかげかむやみに恐怖することはなくなり、わたしは毛布に包まり少しだけ眠れるようになった。
もう、丸一日眠り続けるようなことはない。
しかし、気を抜くことは出来ない。
深い眠りに身を預けると、"わたし"が窓を越えてやってくる。
でも時々思うのだ。
あの時こちらから"わたし"に近づいていたら、と。
もう少し踏み出していたら楽になれたのだろうか、と。
そのまま目覚めぬ夢に身を委ねる事が出来たのだろうか、と。
しかしわたしは毎夜、窓の"わたし"と対峙し、壁に寄りかかり毛布に包まる。
眠りは浅く、"わたし"が窓を越えてくることもない。
まだ"わたし"はわたしを許していないということなのだろうか。
答えは見えず、わたしはまた朝を迎える。