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ああ、もう、限界・・・。
そう思ったから、退団届けを出した。
誰にも相談しなかった。勿論、あいつには言ってない。
長く世話になった場所だから、団長には挨拶の手紙を出すべきだったのかも知れない。
でも便箋を前にしてペンを手にしても、いつまでも字で埋まることはなくて真っ白のまま。
結局、何も連絡せずに退団届けだけを、漸く書いた。
何かがずれてるんだけど、何がずれてるのか判らない。
やればやるほどずれていく。
考えれば考えるほどドツボに嵌ってるのが、自分でも解る。
あの日ゴーストタウンに行ったのも、じっとしていられなかったから。
じっとしていては、また思考の沼に嵌ってしまうコトだけははっきりしていた。
4月1日。土蜘蛛の結界に覆われた街。
人気のない通り。あとからあとから湧いてくる蜘蛛。
傷を負ったたくさんの能力者。倒されていく土蜘蛛の軍勢。
力尽きた仲間。逃げた女王。
これだけの大きな戦いは、結界の中にも影響を与えるだろう。
しかし、世界結界に護られた多くの人たちには、エイプリルフールの冗談だと思われるかも知れない。
だけど、怪我をした身体は重いし、テルの涙は・・・痛かった。
この間、寅の家に遊びに行った。
寅の家は学校から近くて最近良く遊びに行ってて、当然のようにテルもついて来てた。
寅の家は純和風な感じで、縁側と猫が良く似合ってる。
寅がお茶を持ってくる間、テルは猫と遊んでて。
「ねえねえ空ちゃん、猫と遊んでもらっちゃった」
テルが気まぐれに猫と戯れてるように見えて、その猫がわたしに重なって見えた。
なんとなく直視できなくて視線を外に向けると、テルが横に座った。
「……僕は、ここにいる、から」
猫を抱えて差し出すテルに、なんだか凄く腹が立った。
ここにいるからなんだって言うんだろう。
いつもより真剣な声でも、顔はいつもの笑顔のまま。
・・・まったく意図がつかめない。
だから少し、言い過ぎた。
「今のわたしに、テルはいらない・・・」
傷ついた顔のテルを残して、走って家を出た。
後ろから寅が追いかけてくるのがわかったけど、立ち止まるわけには行かなくて必死に走った。
川原まで走ったあたりで腕をつかまれた。
振り解きたかったけど、そこまでの力は残ってなかった。
「……落ち着け、忘れ物を届けにきただけだ」
上着を渡すためだけに全力ダッシュで追いかけてくるやつなんていない。
わざわざ様子を見に来たというのか。
橋の柱に背中を預けて座り込み、呼吸を整える。
「テル、ほっといて良いの・・・」
「宣昭が気がかりか?」
即答しそうになって黙り込む。
「宣昭は嘘を知らない。
誰に対しても嘘をつけないからこそ、逆に嘘と真実の別がつかなくなる」
きっとそうなんだろう。それは良く、わかった。
寅は静かに話してて、わたしの気持ちを落ち着かせた。
次会った時は、謝ろう。
でも、その"次"は思ったより早く来たのだった。
明日、いやもう今日だね。
これから学校のみんなで蜘蛛を退治に行く。
「戦争」
そういう言い方をしている人もいるね。
実際そうなんだと思う。
だけど、なんだか大仰な気もする。
「弔い合戦」
そういう言葉も聞く。
間違いなくそうなんだろう。
でも、わたしは報告を見るまで彼女を知らなかった
大きい喪失と引き換えに手に入れた情報。
この犠牲の上に成り立ってる数々の作戦。
みんな本気だ。