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その電話は突然の事。
電話先の声は明るいのだけれど、何か不穏な空気を含んでいる様な気がするのは気の所為だろうか。
請われるままに頷き、客間を片付ける。
一体何に使うと言うのだろう。
そしてはたと気づく。
それから数時間。
今私の目の前に居るのは、いつもどおりに着物を召されて微笑みを湛えた聖雪さん。
それから、着替えを済ませて遠い目をした流茶野さんと、寅靖さん。
その格好は、とてもピンクで、とても可愛らしくて、とてもフルーティなものだった。
目の前には広げられた地図と、大きなモンブランの乗っていた空の皿。それに紅茶。
作戦通りに捕獲されたお二人を見る限り、彼らは既に聖雪さんの掌の上なのだろう。
「機会は一度きりなのです。此処を逃すと次はないでしょう」
真剣な瞳の聖雪さんを見ながら、口は災いの元だとは良く言ったものだとしみじみ思う。
怒りの理由は既に聴いている。
もし私が同じ事を言われたならきっと同じように(行動には移さなくとも)怒るだろうと思ったからこそ、こうして着替えの場所を提供したのだ。
何故なら、乙女心はとても傷つきやすいのだから。
でも、このセレクトは・・・堪えきれず肩が震え、涙が出てくる。
「と、いう訳で。私はそろそろ参りますね。長い間お邪魔したのですよ」
「・・・いえ・・・どうぞ、此処まで来たら最後までやり遂げて下さいな」
語尾が震えるのを必死に隠しながら、最後の標的を捕獲に向かう聖雪さんと、お二人を見送る。
(・・・骨は、拾って差し上げますからね、皆様)
もしかしたら骨も残らないかも知れないけれどと思いながら、一人のリビングに戻る。
自然と目が行くのは、リビング横の客間。
そこに入って行く煤けた背中と、出て来た時の遠い目が思い起こされて、耐え切れず笑う。
それは堪えていた分容易に止める事は出来ず、次の笑いを引きずり出す。
声を上げて笑ったのはいつ以来だろう。
顎が疲れるくらいにたっぷり笑って、大きく息をつく。
外は既に宵闇が迫っている。
きっとここに戻って来る頃には、燃え尽きているに違いない。
晩御飯なんて上の空、魂が果てまで飛んで行った姿を想像して、また笑った。